Liminal Space (リミナル・スペース) というインターネットミーム

Liminal Space (リミナル・スペース) といわれる概念をご存知でしょうか. 筆者はいわゆるノスタルジック・ホラーというジャンルに属するホラー作品が好きで, 日頃からそういった関連の映像作品を YouTube で見たり, 時たまゲームで遊んだりしているのですが, ふと YouTube に目をやったところ, 関連動画として次の動画がぽっと出てきました.

この動画を発見して, 筆者は初めてこの “Liminal Space” という言葉を知ることになりました. Liminal Space の雰囲気をいち早く掴みたい方は👆動画をご視聴頂くのが良いかもしれません.
なお, この動画はあからさまなホラー演出, 例えば俗に言うびっくり演出があったり, 況してや何か超常現象的なものが扱われていたり等も全くせず, 無機質的な空間画像のランダムなスライドショーに BGM が鳴っているだけの内容ではあるのですが, 一応, 感受性の高い方等, 人によっては不気味に感じたり, なにかトラウマを呼び起こす可能性が考えられますので, ご視聴は自己責任でお願いします

と示すことにより免罪符を得たいところであります

. 筆者自身は, もはや見ている/聴いている途中から作業 BGM としてとても良いことに気づいてしまい, この記事を書いているいま正にそのような使い方でこの動画を見ている/聴いています😇

筆者は, この Liminal Space という言葉自体を知らなかったものの, こういったものに対するある一定の共通認識自体はあったように思えます. おそらくこの動画を視ると, 言葉自体は知らなかったがこういうものを想像したり, 夢でみたり, またネット上で見たり等したことがあるような感覚に陥る方も, 中にはいらっしゃるのではないでしょうか.

この概念がミームとして定着していて, 更にそしてそれを表す Liminal Space という言葉の存在に気づけたことで, いままで感じていたなんとなくの認識をさらに深堀りできそう!ということで, 本エントリではこの Liminal Space と言われる概念についてとりあげます. 一つお断りとしては, この Liminal Space に対する素人, 玄人があるのかというか, こういった文化について専門的に研究するような学問があるのか (哲学?) も知らないくらいの素人?が書く文章でありますので, もしそういったなにかに付随させたり適用したりして考察しているような方がいるのであれば, それに比べると妄言的なことを書いている可能性もある気がするので, そのあたりは適当にご覧ください🙏

Liminal Space とは

Liminal Space (リミナル・スペース, 以下 LS) とは一種の概念であり, 感覚的に捉えられる共通認識であり, そしてインターネットミームです.

リミナルスペースとして知られる美学は, 他の 2 つの場所または存在状態の間の移行である場所です。 通常, これらは放棄されており, たとえば午前 4 時のモールや夏の学校の廊下など, 人がいないこともよくあります。 そのため, 凍りついたような, 少し不気味な感じがしますが, 同時に私たちの心にも馴染みます. — https://aesthetics.fandom.com/wiki/Liminal_Space より翻訳して引用

その発祥は, 2019 年に匿名の 4chan ユーザーが超常現象掲示板で「ただ『不快』と感じる不穏な画像を投稿してください」と質問し, そこに投稿された画像によるものだそうです. 詳しくは, 上記引用元のページを参照されるとよいかと思います. また, この LS といわれるビジュアルを只管投稿しているアカウント @SpaceLiminalBot よりその具体例を見ることができます.

これらの具体例を見ると, 特に何の変哲もない普通の場所ではあるものの, 何かゾワゾワと不気味になるような, しかしどこか懐かしい気が…という感覚がするのではないでしょうか.

広義の意味で LS とは, @SpaceLiminalBot の投稿や上述の動画から鑑みるに, そういう感覚のする場所という認識で間違ってはいないんじゃないかなあと筆者は思っています. より狭義の意味では Liminal (\fallingdotseq 境界1) Space (== 空間) に, また上記「他の 2 つの場所または存在状態の間の移行である場所」という説明に基いて, 下記記載の「境界空間」を意味する言葉なのではないかと思います.

境界空間の概念は, 廊下, 待合室, 駐車場など, その機能上過渡的な性質を持つ物理的空間を包含します。 多くの場所や休憩所は, そのような場所の典型的な例になります。 境界空間の美学は, 設計された文脈の外でそのような場所を提示されたときに人々が報告する, 不気味さ, 懐かしさ, 不気味などの独特の感情に関連しています。 最も注目すべきは, 出発地と目的地の間の中間点としての機能です。 たとえば, 夜の誰もいない階段の吹き抜けや病院の廊下は, 通常, 生命と動きに満ちているため, 不気味に見えるかもしれません。 したがって, 外部の刺激 (会話, 人々の動き, あらゆる種類の社会的力学など) が存在しないと, 別世界のような寂しい雰囲気が生まれます。 — https://aesthetics.fandom.com/wiki/Liminal_Space より翻訳して引用

…というように, 言葉の定義に関して「思います」という弱い表現を使うことは通常好ましくないことは重々承知ではありますが, いかんせん日本語での明確な定義づけが行われている文献を見つけることができなかったので, 集合知が広がり, 日本語で明確なものとなるまでは断言するのを控える立場を取らせて頂きたいと思います…

が大体の雰囲気は伝わったのではないでしょうか

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LS の興味深い側面は, ある人にとっては懐かしく見えるものでも, 別の人にとっては不気味なものかもしれないし, 何の感情も伴わない当たり障りのないものかもしれないという点で, 主観的な要素を多分に含んでいながらも, インターネットミームとして認知されうるほどの共通認識が育める点だと思います. まあ, ヒトや Stable Diffusion の如く, 多くの LS といわれる画像を認知した上である程度のパターンを学んだら, 自身がどのように感じようと, LS ってこういう画像のことだよね?と提示することはできそうですが, 懐かしい気がするけど不気味にも感じるという感覚に陥る LS 画像が一定数はあると思うのです.

LS の構成

作り出されたモノをよりよく理解したければ, それ自身をイチから作ろうとすると良いでしょう. 一度すべてを分解して, 色々と調べた上で再度組み直せた暁には, それをする前と大分違った見識が身についているはずです (車輪の再発明と揶揄されても, 気にしない).
LS に関しても同様, これを作ることを考えて, その主要素である「不気味さ」について深堀りし, 理解を深めてみたいと思います. というか, 「不気味さ」+「懐かしさ」の空間が構成できれば, それは広義の意味での LS と言えそうなので, この部分が一番重要なわけですね.

さて不気味さというのは基本的に, 人間にとって不快感のある事象ですが, 人間が何かに対して不快感を感じているときというのは, 根本的に考えてみると, 生命維持への (直接的/間接的問わず) 脅威要因になり得る事象に立ち合っているときと捉えることができます. 生命維持への脅威要因になり得る事象というのは, 人によって異なりますが, 多くの人が脅威に感じやすい事象というのはありそうです.

その一つとしては, 「未知」という事象が挙げられると思います. 知らない食べ物は食べたくないだったり, 知らない場所には行きたくないだったり, 知らない人とは遊びたくなかったり, 知らない xx は … というように (無論, 先に示したように脅威要因になり得る事象というのは人によって異なるので, このどれもが当てはまるわけではないでしょうが) 未知に対して脅威を感じることは, 日常生活の中でもあるのではないでしょうか.
つまり, LS の一部はその未知に対する不安感と, 既知からくる懐かしさが組み合わせている概念なのではないかと筆者は思うわけです.

一つ一つは, よく目にしたことのある何の変哲もないオブジェクトであり, どこか懐かしさを感じるが, それらの組み合わせから成る空間は, その空間以外の「何か」も必然として記憶されていて, その「何か」が欠けたとき, その空間を含む状況そのものを未知と認識し, 不気味さを感じる, という仕組みなのではないかと.
つまり LS を表現する方法の 1 つとして, 既知の集合体によって空間を生成し, そこに付随する必然的な付加要素を見出して, それを欠けさせることが最適なのではないかと思うわけです. 上記「Liminal Space とは」で引用の

たとえば, 夜の誰もいない階段の吹き抜けや病院の廊下は, 通常, 生命と動きに満ちているため, 不気味に見えるかもしれません。

は正にこの具体例ではないかと思うわけです.

@SpaceLiminalBotツイートより引用

上図は @SpaceLiminalBot から引用した画像です. ただの部屋では?と思えばそれまでですが, 中には少し懐かしさもありつつ不気味に思えた方もいるのではないでしょうか. 不気味に思えた方は, この画像を見ながら, この画像の上に普通に元気に遊んでいる子供の情景を想像で投影して見てください. すると, 少し不気味さが減ったような気がするのではないでしょうか. これは, まず懐かしさに関しては, 画質の粗さや古そうなテレビ, 少し黄色み掛かった全体の配色…等が引き出していると考えられます. そして, 不気味さに関しては, 子供サイズの椅子や子供が好みそうなキャラクターのオブジェクトが配置されているのにも関わらず, 子供が一切写り込んでいないという必然に対する欠如からくる違和感が引き出していると考えられるわけです. その他, 天井の低さ/部屋の狭さによる圧迫感, 白一色からくる隔絶感, 井戸にお住まいの某女性がちょうど出てきやすそうな大きい画面のテレビなど, 他の不気味要素が様々に絡み合っているともいえるでしょう.



そういった未知に対する不気味さの一種として, 「無限ループって怖くね」ともよく言われるように 「無限」という事象も脅威に感じられるのではないでしょうか.

@SpaceLiminalBotツイートより引用, よく見ると有限

また, 先に述べた「隔絶感」は「無限」と密接な関係にありそうです.

The Backrooms - Know Your Meme より引用

上図は The Backrooms という, これまた別のインターネットミームで有名な画像です. 詳細についてはおググり下さいというところですが, The Backrooms 空間の一部は LS とも密接な関係にあるといえるでしょう. 奥から何か出てくるのではないかとか, 果てしない空間なのではないかとか, 想像を絶する空間が広がっているのではないかとか, そういった不安感の駆り立て方は LS と共通のものがあります2.

無機質さに見出す奇妙な魅惑

…というように LS の一部を構成するモノの特徴を考えてみましたが, 本来, 無機質な建築の空間に奇妙な魅惑を見出すこの LS という概念は, 日本での余白に対する捉え方のように, 人の無に対する何らかの美学が共通として現れているような気がしました.

調べれば調べるほど興味の湧く沼深いこの LS という文化について, みなさんも是非お調べいただき, 各々の感性で捉え, 発信してみて頂きたいと思います.


  1. 「敷居」を意味するラテン語の limen に由来↩︎

  2. いまではたくさんの The Backrooms を題材としたゲームがリリースされています↩︎