教育者としての中村憲剛元プロサッカー選手

ふと, 下記の動画を見ました.

これを見て, 中村憲剛元プロサッカー選手 (以下中村憲剛元選手) は指導者としても素晴らしい, 日本サッカーを牽引していくような, かけがえのない存在であるな〜と感じ, 何故そう思ったのかを謎に文章に起こしたくなったので, 一筆書くことにしました. なお筆者は学生時代まであるクラブチームでサッカーをしていた経験はあるものの, 当然ながらプロ選手になったこともないし指導者をしているわけでもないし, 増してや最近はあまりサッカーのことを考える時間もそこまであったわけではないので, ヘンテコなことを言っていても適当に受け流すか, 良い感じに指摘してくださると幸いです, という免責をしておきます.

教育者としての素晴らしさ

内容については動画を見て頂ければと思います. まずサッカーをあまりよく知らない人のために, どのクラブ, どの段階でもよくあるサッカーの基本的な練習方法の 1 つとしてパス練習というものがあるという前提をここで事前に宣言しておきます. パス練習と一言に言っても多種多様で, ロングフィードを中心のものから, 3m 間隔くらいのもの, より広義に考えるとサッカーはボールを蹴るスポーツであり, パスとは味方にボールを渡すことを指す言葉でありますので, 味方にボールを渡す行為を含む全ての練習はパス練習ということもできますが, 大抵の場合, 味方にボールを蹴ることを主軸においた練習のことをパス練習といいます. 動画の中では, 見たところ大体 4 m 間隔くらいでしょうか. 通常ボールを浮かせないパス, 所謂ゴロパスの練習が行われているシーンがあります. これは, まあクラブの方針に勿論依るところはあると思うのですが, 大抵のサッカークラブにおいてはこの間隔でのパス練習は必ずあります. 見てもらえると分かるように, この練習は中でも”地味”な印象を与えるかもしれません.

基礎基本というのは, 端からみるとどの分野においても地味な印象を与えることが多いかもしれませんが, サッカーについても, その基本動作である「パス」と「トラップ」に特化した練習は, 地味な印象を与えるかもしれません. 地味な練習というのは, その目的や意義が見いだせないと, 中々本人にとってモチベーションを保つのが難しいところがあると思います. 例えば, ある義務教育課程にあたる子供から 何故 xx なんて勉強しなきゃいけないのか, こんなこと将来の何に役立つのかと言われるシチュエーションがあります (ここで, xx には任意の科目が入る). この疑問を持つことは理にかなっています. 人間の持つ, 無駄なことはしたくないというある意味での合理的な欲求は, 年齢問わず存在するものであり, 目的も分からないままただ退屈に感じることを追求していく苦行など, 大抵の人間はしたくもありません. この状況下における適切な対応とは, それが何に繋がっているのかを教えてあげる, それが気付けるように誘導してあげるといったものが挙げられると思います. しかしこれは, 通常大変むずかしいことであると思います. そもそも, それを教えてあげる側の立場である人間も何に役立つか思いつかないということであれば, 説得することは困難であるし, はたまたそれは本当に役立たないことである可能性もあるからです. 義務教育課程で習う教科ということについて限定するのであれば, 義務教育課程で習う教科は (良心的な解釈をすると), 平均的な日本人の人生において役立つはず1で, 本人がこれから送りたい人生に対して, 汎用的な基礎力を身につけるものであるので, 大抵の場合”やっておいたほうが良い”ということは間違ってはいないです. しかし, いかんせんそれを知らない, まだ実感するシーンに遭遇していない本人からすると, どうも具体性が足りないし, そもそも自分がこれからの人生をどのように送りたいかなんて2, 年齢として若ければ若いほど定まっていないわけで, 何にせよ基礎力の重要さについて若い段階から気づくということがそれなりに難しいというのは, 一般的な解釈として間違っていないでしょう. そして, 教育者, 先生の存在意義の 1 つとしては, この問題を解決することにもあるのではないかと筆者は思っているわけです.

話が少し脱線してしまいましたが, 動画の中で, 中村憲剛元選手はサッカーにおける基礎技術である「パス」と「トラップ」 について, 練習生に対し以下のように言っています.

(パス練習に対して)ミスが起きるこの練習だけど, そのミスの質がすごく大事.

30 秒間 (パス練習を) 4, 5 回やったけど こだわってる選手とそうでない選手がいた

続けて, 以下のようにも言っています.

みんながこだわっていると思っている, もっと上のレベルでプロがこだわってる. 技術ももちろんだけど, 意識だ

基礎の質を高めることがいかに重要であるか, またそのモチベーションとして, それが何に繋がっているかを考えるように促しています. 別のシーンでも 7 対 4 のパス回し, 所謂トリカゴと言われる練習でありますが, それについても以下のように言及しています.

何を養っているかというとボール回しながらどこに穴を開けるか?だから, そういうイメージ (目的) をもってやらないと このトレーニングはただの 7 対 4 のパス回しだけになる

これは, パス練習という一見”地味”で退屈になりがちな基礎練習に対して, その真の目的を気付けるように誘導する指導です. 先にも示した通り, 基礎基本の重要性を若い世代に説明すること, それを言語化していくことは簡単ではありません. 中村憲剛元選手は, この点言語化の能力も含め, 指導者としても, 素晴らしい存在であるというふうに思ったという次第です.

中村憲剛元選手のパスとトラップの意識はどこからきたのか

中村憲剛元選手は指導者としても素晴らしいということの主張は以上ですが, 同選手がパスとトラップという基本動作をこだわっていることについて, その発祥と, どのような経験からその重要性が導き出されたのかということに少し興味が湧きました. これについては, 以下の動画から垣間見ることができる気がします.

7:12 秒あたりで, 中村憲剛元選手の所属していた川崎フロンターレの元監督である風間監督について言及しています.

日本代表も入ってたし自分の中では, (ボールを止めることは)できる側だと思ってた. でも (風間監督が) 来て, 「お前まだもっと止まるよ」 (と言われたことにより) 丁寧にやるようになってからすごい変わった.

同動画に出演されている鈴木啓太元プロサッカー選手 (以下鈴木啓太元選手) の「どうやったら止まるの?」という質問に対しては, 下記のように述べています.

意識だよ. あとはトラップを見て(それが)止まってると言ってくれる指導者がいてくれないと. あと, 次のプレーに早く行けるなら止まってる (と判断できる)

また, 上記で中村憲剛元選手の言語化能力について述べましたが, 同動画内でも鈴木啓太元選手がサッカーのことを説明するのがうまいと言及していました. このことについて, 中村憲剛元選手は下記のように述べています.

人に伝わらないと, ボランチは言語化がマスト. 真ん中の選手は人に (やってほしいことを) 伝えるのが仕事. 試合中に短い時間, 短いセンテンスで話さなきゃいけないから. 特にボランチは全体を動かすから, 司令塔だから, 自分の意志が伝わらないとチームが動かない

中村憲剛元選手の言語化能力は, こうした日々のボランチの経験を基礎として養われたものなのかもしれないですね.

今後の日本サッカーへの期待

この記事の公開前日に挙がった動画では, 以下のように日本サッカーへの角度の高い教育意志を語っています.

プロから教えるのではなく小学生から教えないと

1 ファンとしては, このような素晴らしい指導者の元で育つ, 今後の日本サッカーに期待したいところであります.


  1. 文部科学省の定めるところによりますと, 義務教育の目的は以下の 2 つを中心に捉えることができるものとしています
    1. 国家・社会の形成者として共通に求められる最低限の基盤的な資質の育成
    2. 国民の教育を受ける権利の最小限の社会的保障
    ↩︎
  2. この「何がしたいか」ということに着目し, 事前に目標を立て, 人生を進めていく戦略自体は必然ではありません. 詳しくは, https://slowinternet.jp/article/20210610/ がよく参考になります.↩︎